20年後の物語・・・悲しき妄想が真実になる
■遅すぎた国 2045年の短編小説・主人公・元プログラマーの佐藤ユウト(45)
2045年世界は3大国家が支配していた!日本は軍事的にはアメリカに支配され、経済的には中国に支配され、また裂き状態となって居た。2035年の中国による台湾進攻により日本は軍事的にも経済的にも大被害を受けて復興中であった。そしてさらなる5年前の南海トラフ地震、首都直下地震、富士山噴火の直後で、政府すらも機能していない無法地帯と化していた。
日々の普通の雨でも水没や洪水は状態化していてニュースにもならなくなっていた。貧困層の餓死さえも放置され街に死臭や腐臭が充満するスラム街も出現していた。まったく誰も気にしない街の光景である。
2045年、日本以外の発展著しい世界はASIで再編されていた。都市は自律制御されたAIによって運営され、資源配分も政策決定も医療診断も司法判断もASIが担っていた。ASIによる計画経済と自由市場の融合は、かつての資本主義も社会主義も超えて「超合理社会」と呼ばれていた。2030年代後半には、AI国家と非AI国家の間に文明的なとてつもない格差が開いていた。
その中で、物理的にもインフラが破壊され尽くした日本だけが取り残された。政府はAI導入に「慎重論」を繰り返し、既得権を持つ村社会温存の官僚組織はデジタル化・AI化を骨抜きにし、労働組合は「人間らしい働き方を守れ」と叫び続けた。
結果、度重なる巨大天災によりインフラの殆どが破壊され大企業の殆どは海外移転をしたし、有能な極少の日本人もビジネスビザで海外移住をしてしまった。スカスカになった日本では2045年になっても、役所は紙書類とFAXでダラダラと業務を行い、海外移転能力のない中小企業の会議は未だに判子を回していた。
日本政府は戒厳令を出し、日本国民の海外流出を禁止した!国民負担率は実に7割を超える様になった。経済困窮した日本は最大税率9割の財産税も実施して居た。納税違反者は摘発され、刑務所での奴隷的強制労働を強いられる事になった。それは、2035年参悪党が連立政権で首班を取り、憲法を改定して国民主権から国家主権に変えた事で犯罪者の人権停止は法律化され、奴隷的強制労働は実現可能となって居た。
AIによる自動運行網も、日本では法整備が遅れ、走っているのは昭和の時代の老朽化したディーゼルバスだった。農業は地球沸騰化で壊滅状態!産業も壊滅状態!!生活必需品の工場も人手不足で壊滅寸前だが、それでも人々は「AIは人情がない」と呟いては、何も変えなかった。
■過去にしがみつく老人国家
東京郊外の避難団地で、元プログラマーの佐藤ユウト(45)は、瓦礫の間に設置された簡易端末で海外ニュースを眺めていた。世界のAI都市では、失業も貧困もほぼ解消し、平均寿命は100歳を超えたという。人々は週に10時間しか働かず、残りの時間は学びや芸術やアクティビティーに費やし人生を謳歌している。
一方、日本は食料危機と貧困により日本人の平均寿命は70歳を切っていた。猛暑と飢餓、度重なる震災とインフラ崩壊が寿命を奪い、医療制度は機能していない。犯罪も多発していて、警察もその殆どを無視している状態である。殺人すらもはやニュースにもならない。それでも、選挙で多数を占める高齢者は「昔ながらのやり方が安心だ」と言い、自民党と参政党を選び続けAI導入に反対票を投じ続けていた。
ユウトの母もその一人だった。富士山の噴火で家を失い、ユニセフ等の微々たる補助金だけを頼りに避難団地で暮らしているが、「機械が決める世の中は恐ろしい」と言って譲らなかった。ユウトは何度もAI活用を説いたが、母は「人の絆が大事」と繰り返すばかりだった。だが、その「絆」とやらも、今や我欲が満ち満ちた誰も会話しない無言の列で、極少の食糧配給を待つ沈黙に置き換わっていた。
■亡国の日常
正午、警報が鳴った。熱波により変電設備が再び焼け、首都圏全域が停電した。空調も冷蔵も停止し、団地の中で老人たちが次々と倒れた。救急隊は到着しない。道路がひび割れ、橋が落ち、通信網も不安定だからだ。しかしテレビでは相変わらず、政府広報が「みんなで乗り越えよう」「日本人の絆の力で」と繰り返していた。
実際には、何も乗り越えられていなかった。AI化を拒んだ行政は人手不足で崩壊し、災害対応の指揮系統は存在しない。避難所の運営も物資管理も、すべて手作業と紙記録で混乱している。ユウトは乾いた笑いを漏らした。「絆」では、電力も水も復旧しない。
その頃、アジア大陸のAI都市群は、日本列島のことを「非効率自治区」と呼び、もはや経済圏から切り離していた。技術的支援も投資も打ち切られ、日本円はほとんど無価値になっていた。当然の事だが日本に旅行などする人は皆無の状態となった。時折、”人買い”でアジア圏のマフィアが少年、少女を物色しに来るダケの状態となった。
■最後の光
夜、ユウトは避難団地の屋上に登った。星は見えず、空一面が灰と熱気でぼんやりと赤黒く輝いていた。足元では、団地の老人たちがろうそくの火を囲み、昔の歌を口ずさんでいる。その声は懐かしくもあったが、同時に絶望的に遠い過去のものに聞こえた。
彼はポケットから小型AI端末を取り出した。かつて個人的に開発し、密かに動かし続けてきた唯一のAIだ。
この国では違法だったが、もはや恐れる理由もなかった。AIは小さく起動音を鳴らし、言った。
「ユウト、日本脱出航路を計算しました。3日後の午前2時、台湾沖のAI都市圏に三浦半島沖からの無人輸送艇があります。」
ユウトは目を閉じた。この国にはもう未来がない。あるのは「過去を守る」という名の静かな滅びだけだ。
だが、個人としての未来は、まだ選べる。
遠くでまた地震の揺れが来た。灰の空に、稲妻のようにひびが走った。ユウトは端末を握りしめ、静かに決意した。
「さよなら、日本。」
高く飛び去る無人飛行艇からユウトは日本の夜景を見る事はなかった。