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必要以上の金は・・人を真逆に変える!人間が内在する狂気

イーロン・マスクという“天才”の落とし穴――全能感がもたらした混乱とその代償
イーロン・マスクという名前は、革新と天才の代名詞として世界中で語られてきた。スペースXで宇宙事業を切り拓き、テスラでEV革命をけん引した彼は、時代の先を行く存在だった。しかしそのカリスマが、いま大きな岐路に立たされている。問題の核心にあるのは、彼自身の“全能感”――つまり、自分には何でもできるという過信だ。

その象徴が、マスク氏が米政府の支出削減に取り組んだ一件である。かつて彼は、「アメリカは無駄が多い。2兆ドルを削減できる」と公言した。しかし、2025年1月には目標を「1兆ドル削減できれば素晴らしい成果」とトーンダウン。実際に彼が退任時に語った成果は、1600億ドル(約23兆円)の節約だったが、実態はもっと少ないとの指摘もある。つまり、目標達成率はわずか8%、あるいはそれ以下とみられている。

それでも、短期間での大規模なコストカットが引き起こした混乱は深刻だった。マスク氏がツイッターを買収して「X」へと変貌させた時のように、第一原理思考(物事を根本から見直す思考法)を政府運営に適用しようとしたのだろう。しかし、それが通用するにはあまりにアメリカ政府という存在は巨大で複雑すぎた。

比較してみよう。2024年のアメリカ連邦政府の予算は約6.75兆ドル(約1020兆円)、職員数は約240万人(郵便局員を含めれば300万人)にのぼる。これは、マスク氏が買収したツイッター(従業員7000人強、売上約52億ドル)に対して、人員で約400倍、経済規模で約1293倍にもなる。この規模の組織を、たとえAIや少数精鋭のチームを駆使したとしても、半年程度で改革できると考えたのは無謀だった。

実際、ツイッターですら再建には2年かかっている。政府のような硬直した巨大組織に対し、短期で成果を出そうとしたのは、まさに“全能感”の表れだったと言える。常識的に考えれば不可能だとわかることを、マスク氏はあたかも当然のように進めようとした。

この“過信”は、徐々にマスク氏の周囲をも侵食している。彼のビジョンに共鳴して集まった優秀なスタッフたちが、幻滅して離れていく可能性も指摘されている。その結果、テスラをはじめとする企業グループの屋台骨が揺らぎかねない。

実際、テスラの経営状況も悪化している。2025年第一四半期決算では、実売ベースでは赤字に転落。炭素クレジットによってなんとか黒字を保っているにすぎない。また、欧州ではテスラ車の不買運動が起きており、スウェーデンやオランダでは売上が6割も減少。全体としても4割減という厳しい状況だ。

さらに、マスク氏が買収したX(旧ツイッター)でもユーザー離れが進んでいる。顧客数はおよそ1000万人減少したとされており、かつての熱狂が急速にしぼんでいるのは否めない。

マスク氏の言動には、近年トランプ大統領との共通点も見られるようになってきた。大胆な発言、事実に基づかない楽観的な見通し、そして反発を恐れない強硬姿勢――こうした“はったり”が、今や「類は友を呼ぶ」形で彼らを結びつけているように見える。

こうした状況を見ると、かつてアップルから追放されたスティーブ・ジョブズの若き日の姿を思い出す。ジョブズはその後復帰し、再び世界を変えたが、マスク氏が同じ道をたどれるかは不透明だ。

さらに心配なのは、マスク氏が「ヒトラーを称賛した」とも報じられるような極端な思想に傾倒しつつある点だ。もし彼が真に“狂気”に囚われたとしたら、世界に与える影響はあまりにも大きすぎる。

マスク氏は、地球沸騰化防止などの高い理念を掲げ、多くの人々を惹きつけてきた。その志は尊い。しかし、いま彼の“揺らぎ”がその理念すら傷つけてしまっている。理念に共鳴した顧客が離れていくことは、単なる経営的な損失以上に大きな罪だ。

イーロン・マスクは、天才であるがゆえに、自らの限界を見誤ったのかもしれない。今、必要なのは「全能感」ではなく、「謙虚な現実認識」だろう。世界を変える力を持った人物だからこそ、その力を正しく使ってほしいと、心から願わずにはいられない。